六*授賞式

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「五人兄弟だから、埋もれないようにするにはなにかに特化しないといけないんだけど、こういうのを器用貧乏っていうのかなぁ。小さい頃からそこそこなんでも出来たから、親は手のかからない子と思ったみたいで、オレのこと、ずっと放置しちゃってくれて。上と下が手がかかるから、それを見てたら余計に迷惑かけられなくって」  たまに見せる巡の『弱音』に、わたしはいつも、戸惑う。 「だからかな。のびのびとした奏乃の絵に惹かれるのかもな」  それは褒められているのかどうか、微妙な線。 「オレには描けない絵だからこそ、もっと見てみたいって思うんだ」  よく分からないけど、褒められていると思っておこう。  改札をくぐり、電車に乗って家の最寄り駅に近づくにつれ、すっかり忘れていたことに気がついた。  わたしは飛び出すように家を出てきたのだ。  どんな顔をして、戻ればいいのだろうか。  お父さんはわたしを家に入れてくれるのだろうか。  巡はいつもの調子で色々と話しかけてくる。  だけど今のわたしはそれどころではなく、巡の言葉が耳に入ってこない。 「……奏乃?」  どんどんと沈み込んでいくわたしに気がついた巡は、下から顔をのぞき込む。 「どうした?」 「…………」  気持ちが沈み込み、心が重く感じる。  電車はわたしたちの家のある最寄り駅に到着した。  巡に手を引っ張られて、のろのろと電車から降りる。
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