村井時緒(18)

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そうだ……もう、三年生なんだ。 二年生の時にはあった空の席が、この教室にはない。 空の席はない。 「……」 「村井?どうした?」 回ってきたプリントを受け取らないので、橋本が振り返ってきた。 「なんでもねえよ」 プリントを受けとる。 名前の欄に、3年5組村井時緒と書く。 俺はもう二年生じゃない。 加代子はまだ二年生なのに。 ************ おかしなことが起きたのはその日の夜だった。 テスト勉強をたっぷりして、さあ寝ようと目を閉じた瞬間、携帯電話が騒ぎだした。 驚いて悲鳴を上げそうになるのを堪えて、携帯電話の着信を止める。メールがきたみたいだった。 誰だ。こんな夜中に。と思ったのはほんの少しだけで、それよりも着信音が気になった。 俺はいつもバイブレーションだけの設定にしているのに、音が鳴っていた。 けたたましい音で。 これは、確かラデッキー行進曲だ。 運動会の入場などでかかる行進曲。 チャチャチャ チャチャチャ チャチャッチャー チャララララッチャチャ。 なぜそんな着信音になっていたのかわからないが、多分友達か弟の仕業だろうと、気にするのはやめた。
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