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満月の光が差し込む廊下を、一人の男が息を切らしながら走っていた。
綺麗な赤い絨毯が廊下の中央に敷かれ、燭台が廊下の壁にかかっている。
男は、廊下の壁に取り付けられたいくつもの扉の一つを思い切り開けて、中へと入る。
「リズ! ついに生まれたのか!」
私の子が! と興奮した様子で男は付け加えた。
部屋の窓際にあつらえられた天蓋付きのベッドには、リズと呼ばれた女性が、赤子を抱えながら座っている。
そのベッドの脇には、燕尾服を着た執事のベルモンドが、立っていた。
「えぇ、ゼルス。元気な男の子ですよ」
「おぉ! そうか、男の子か!
ん? 男の子の場合の名前はなんだっかな?」
ゼルスは、首を傾げた。
一昨日の晩まで、リズと二人でずっと考えてきた名前だったはずなのに、出産という二文字で、綺麗に塗りつぶされてしまった。
「男の子の場合は、ロゼルクスでございます。ゼルス様」
ベルモンドが、恭しく頭を下げる。
「おぉ! そうであったな。
ロゼルクス、ロゼルクス・デラ・エスペランザだ」
ゼルスは、そう言って赤子の頭を撫でた。
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