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「――魔王様! 魔王様ぁあぁああ!」
広く大きな部屋に誰かの声が鳴り響く。
グシャグシャにひしゃげた玉座。
壁にはビビが入り、今にも崩れそうだ。
壊れかけの部屋には3人の男がいた。
1人は玉座の近くでグッタリと倒れている。
所々血を流しており、絨毯を赤黒く染めていた。
シミの広さは決して狭くはない。
その隣には、倒れた男の上半身を支え必死に呼び掛ける者。
彼の鎧は紅く、濃厚な鉄の臭いを発していた。
「ハハハ……やった、のか?」
2人から少し離れたところにもう1人。
純白の鎧に身を包むその男は、人間たちに勇者と呼ばれ尊敬されていると聞く。
「……なんで俺の攻撃が効いたんだ? 『吸収』されなかったのか?」
勇者は剣を杖代わりにして身体を支えている。身体をガタガタと震わせていて今にも倒れそうだ。
そんな勇者の問いに答える者はいない。
静寂に包まれた部屋で魔王と呼ばれていた男が口を開いた。
「ククク……そうか、生まれたか」
魔王は薄ら笑いを浮かべるが直ぐに顔が歪む。
歯を食い縛り。目は開いているかも分からないほど細い。
握り込んだ拳からはギシギシと不快な音が聞こえてきた。
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