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何度でも言うが、萩野はどこにでもいる一般人だ。何かのプロでもなければ、それほど目立った特技もない。
一人暮らしの為、せいぜい簡単な家事が出来るぐらいだ。
なのに、目の前のお兄さんは萩野の名前を知っている。
一体何者なのだろうか。
独特の笑み、少々裏返った声が白衣を着たお兄さんの異常性を際立てていた。
「もう時間がない、早く行こうか萩野祐希。神様が待ってる」
どこに行く気だ、と不審に思う萩野。
神様が待っているなんて言い方をしているが、そんなのおかしい。おそらく何かの言い回しにちがいない。
それも、結構危なげな言葉の。
萩野は後ろに下がり、精神、肉体ともに距離を取る。
ザリ、ザリ、と地面を踏みしめる白衣の人物は、後ずさる萩野に一歩一歩近づいていく。
お兄さんが近づくにつれ、強い薬のような臭いが鼻の奥を刺激してきた。
身の危険を感じとった萩野は、周囲に助けを求めるべく目を泳がし、あることに気がついた。
(人が……いない?)
周りにはサラリーマンがいたはずだ。
他にも小さな子ども、お婆さん、色々な人たちが。
だが、誰もいない。比喩なしに誰もいないのだ。
何がどうなっているんだ、と萩野は顔を歪める。
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