Ⅰ,土砂降りの仔猫

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「あー……」 情けない声 情けない顔 今臨也に会ったら間違いなく本気で同情される …あの似非聖人に、だ 取り敢えず誰に会ってもろくなことにならない だから私はきったないビルの裏口に踞っている 「状況説明終了」 別段仕事を失敗したとかそう言う訳ではない 仕事そのものは完璧に近い ただ客に言われた最後の一言に ここまで打ちのめされる自分に打ちのめされたと言うだけの話 {あんたらはいいよなぁ。逃げも隠れもせずに生きていけんだからよぉ} 「あーくそ…最悪だ」 純血であることに誇りを持っている妖怪はだから嫌いなんだ 羨むような振りをして 私達を蔑むから 「半端者で何が悪いのよ」 意思に反して武器を取り出そうとした左腕を必死に宥めた自分を誉めてほしい こんなつまらないことに 我を忘れかける自分を嘲笑ってほしい 「あー…」 泥沼な思考を停めるために右手で煙草を取り出す なのに 左手はジッポでなくナイフに触れている 「………ちっ」 心底苛立たしい 「おい、どうしたんだ」 「シズちゃん?」 今では大分少なくなった私の本名を知っていて呼んでくれる人 平和島静雄 「だーいぶ落ち込んでんな」 「へへ」 「ライター持ってねぇのか?ほら」 「ありがとー」 煙草の先に灯された火を貰う 静雄も私の隣に座って煙草を吹かしだす 「私ね、人間が怖いんだ」 「そうか」 「だけど嫌いじゃないよ」 「あぁ」 「でも」 「ん?」 「私は人間じゃないんだよね」 「………」 怒らせただろうか 「俺はお前が嫌いじゃねえぜ。虹」 「……ありがとう」 「人間かそうでないかなんか関係ねぇよ。第一お前、完全に人間じゃねぇって訳でもねんだろう?」 「…うん、でもね」 半端者って、きついんだよ 「…そうか」 それから暫く黙ったまま煙草を吸い続けた 見た目にはなにも変わらない だけど、私には、 さっきまで私を苛んでいるように聞こえた雨の音が――― 今は、酷く心地よく聞こえた―― 「さて、行くか」 「土砂降りだねぇ」 「どっちだ?」 「臨也んとこ………って何で?」 「送ってく」 「……でも」 「雨降りの中で捨て猫見つけたら飼えるかどうかはともかく連れて帰るだろ?」 「……土砂降りの猫?、私が?」 「因みに黒い仔猫だ」 「…ふふ」 ありがとう 呟いた言葉に返されたのは、頭にのせられた温かい掌だった 了
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