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「何。」
彼は何も言わない。
しかし、
目が左右に揺れている。
いらないということだろうか。
「食べないと、死ぬよ。」
私だって、
まだ人殺しはしたくない。
ん?
でも、辺銀だから、
人殺しじゃなく、鳥殺し?
もう一度、ベランダに向かったが、
「 。 。 。」
三度、また妙な音がしたので足を止めて振り返る。
「何?」
「 … い、い。」
それは、
何の修飾語もついていない完全な拒否の言葉だった。
『自分が作った人格』
を私に気づかれた辺銀は、
メガネをはずし、
言葉の虚勢をやめたらしい。
ひどく擦れた声で、
辺銀は私を拒絶した。
あの、妙ちくりんな音は、
辺銀の声にならなかった声だったのか。
「お前は私の作った飯が食えんというのか。」
「…い、らない。」
これは、
作ってきても食べてくれなさそうだ。
困ったことになった。
辺銀に許可をもらうためには
1辺銀に許してもらう。
2ご飯を食べてもらう。
3元に戻る。
の3過程をこなさなくてはならない。
「辺銀、ごめん。私が悪かったよ。ね。ごめん。もうこんなことはしないからさ。」
彼はメガネでの虚勢も、
言葉での虚勢もやめていたが、
目はまだ生きていた。
そんな私の上辺だけの謝辞では許してくれない。
否、解放されてはくれないらしい。
雅記の言葉を信じるのならば、
辺銀は、ワタシの言葉で引き出された己の過去の自分に苦しんでいるのだから。
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