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「無理…だ。僕、は似非人格者、それ以上でも…それ以下でも、ない。僕、は、もう、自分を作り、たくない…」
「もう!…人生は、一度きり。だから、どんな人生でも生きればいい。毎日を積み重ねればいいんだよ。誰でも、そんなことは当然のことのようにやっている。ただ、人それぞれにいろいろな積み重ねがあるだけで。辺銀。このままでいたら死んでしまうよ。私が今言ったことは屁理屈に聞こええるかもしれない。だって、屁理屈だもん。辺銀。生きよう。とりあえず生きよう。そんなところにいたら本当に死んでしまう。」
顔は青白く、
目が飛び出ているように見えるぐらい彼は痩せ、
不健康で、
今にも死んでしまいそうだった。
「私は怖いんだよ。このまま、辺銀が私の知らない辺銀のまま、死んでしまうことが。ただ、必死に…それだけなんだ。」
彼には死の概念がない。
今、
自分が死にそうだという恐怖がないのだろう。
「先生…。僕、は、それ以上に。怖い。自分、が分からな、くなるのが、恐ろしい。…ここに、来て、自分の一番、居心地のいい、居場所を、作った、のに……先生、が、実家に来たから、僕はまた、分からな、くなった。どうすれば、いい…?僕は、何?僕は、怖い。人の、見分けがつかない、僕が、演じないで、人と接する、なんて…無理、だ。だけど…もう、演じ方を…忘れてしまった。」
初めて、
辺銀の目が私にしっかり問いかけた。
もう、
それだけで十分だ。
「なら、生きればいい。そうすれば、答えは見つかる。人格なんて、私がいくらでも見つけてやるから。もう、そんな目をしないで。精一杯生きよう。」
私はそんなこと言われなくてもできる。
でも、辺銀がそれを言われないと
わからないのならば、
何度でも言おう。
「精一杯生きよう。やろう。なんでも手伝うから。」
やっと、辺銀が笑った。
その後、
すぐに倒れてしまったが、
一瞬だけ、
しっかり笑ってくれた。
やっぱり私は辺銀の笑った顔が大好きだ。
メガネがあろうがなかろうが。
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