プロローグ 虚空の中で一人

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プロローグ 虚空の中で一人

苦しい。辛い。怖い。 その三つの感情がわたしの頭を支配していた。 目をつぶっているはずなのに 視界が黒く点滅していく。 すごく息苦しくて酸素を求めて喘ぐけど、 楽になるどころかますます追いつめられていく。 誰かに助けを求めたくて、 虚空に手を伸ばした所で ふと気が付いた。 正確に言えば、思い出した。 どうしてこんな簡単な事を 忘れちゃってたんだろう。 幼い頃からわたしは 忘れっぽい事で 有名だったけれど、 まさかこんな事まで 記憶から消しちゃうなんて。 ――そうだ、わたしはもう死んじゃってたんだ。 だから、この苦しいのも 辛いのも全部気のせい。 死への恐怖も間違いで 恐れるものなんか もう何もないはずなのに、 どうしてこんなにも まだ悪寒が止まらないんだろう……。 「誰か……助けて!」  今度は口に出して そうはっきりと告げたけど やっぱり誰にも届かなかった。
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