誘いの鈴-イザナイノスズ-

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黒い鞘が太陽の光に反射して眩しく思えた。 意地悪い顔の彼には、何だか不似合いな物だ。 「ん?刀がどうかしたの?」 青年は明るい声で話しかけて来る。 まるで刀なんか持ってて当たり前だと意味を込めてるかのように。 「いえ…何でも無いです」 斎藤が持っていたのも、目の前にいる彼が持っているのも、刀は本物だ。 これはハッキリ自身を持って言える。 祖父の趣味である骨董品を長年見ていたお陰で、目利きはあるからだ。 「そう?んじゃ、行こうか?土方さんが待ちくたびれてるから」 「土方さん…?」 あやめは自分を待っている人物がいた事に驚く。 しかも土方、だなんて。 ますます新選組っぽい。 …壬生浪士と言っていたが。 「うん。ここの副長なんだけど、怒らせるとめんどくさいんだよね」 だから早く行こうね? にっこりと、その単語が似合いそうな笑みを彼はあやめに向けた。 「は、はい!」 あやめは反射的に返事をし、足が痺れてるにも関わらず勢い良く立ち上がった。  
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