誘いの鈴-イザナイノスズ-

14/30
前へ
/533ページ
次へ
「……計算?」 何の事だか分からないあやめは首を傾げる。 一体何を計算するのか。 そもそも何故そんな質問をするのか。 「もしかして天然…?やだなぁ…一番性質が悪い」  青年はハァ、と大きな溜息を吐く。 彼は女が好きでは無かった。 彼にとって女は弱くて、直ぐ泣いて、泣けば済むと思ってる嫌なモノ。 都合のいい時は媚を売り、悪くなったら男を盾にして己の身を守る。 卑怯なモノ。 実際、彼女を迎えに行くのも嫌だった。 昨夜見た時は美しいと思ったが。 きっと、気の迷いだったと青年は自身に言い聞かせた。 「あの…?」 「-っ、ああ、ごめんね。さ、入ろうか」 「え、あのっ!」 「ひーじかーたさーん!!連れて来ましたよー」 彼はあやめの制止を聞かず、スパン!!と大きな音を立て障子を開け放った。 唖然とするあやめ。 青年はニコニコしながら中へ入る。 「そぉーじぃぃぃっ!!てめぇは何度言いや分かる!!入る時はもっと早く声を掛けろ!!そして了承を得てから入りやがれっ!!」 「!」 ドスの効いた怒鳴り声。 それだけで声の主が御立腹なのが分かる。 …恐ろしい。 「あはは!そんな怒らないで下さいよ土方さん。ほら、連れて来ましたよ」 …前言撤回。もっと恐るべきなのは彼だ。 凄みの効いた声で怒られてものほほんとしている。 …恐ろしい。 「ちっ、後で説教だからな。…おい、入って来い」 「………」 あやめはとても行きづらい空気の中、勇気を出して部屋へと入る。 「失礼、します」 中には先程出て行った斎藤と、眉間に深い皺を刻んだ美丈夫な男。 あぁ、彼が土方歳三かと頭の隅で思う。 歴史の本で見た土方とそっくりだ。 …いや、瓜二つだ。似過ぎている。とても怖い位に。 「特殊メイク…?」 「…あ?何だ?」 「い、いえっ」 つい口に出てしまった事にあやめは後悔し、土方に座れと促される。 「…春日あやめ、と言ったな」 「…はい」 「女の身で性があると言う事は…お前の親父は武士か?」  
/533ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1834人が本棚に入れています
本棚に追加