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少し乱れた藤色の着物を直し、あやめは古い蔵の前にいた祖父に駆け寄る。
「おお来たな。早速で悪いが、外に出した物の埃を取ってくれ」
目の前には数え切れない骨董品たちがずらりと並んでいる。
くすんだ色の大きな壺や、桐の箱。
中には長襦袢がそのまま放置されていた。
「うわ…いっぱい…」
敷物を殆ど埋め尽くす骨董品は、何ともカビ臭い。
長い間蔵の中で眠っていた証拠だ。
「どれも貴重な物だから慎重にな。壊すなよ」
「…気をつけます」
細心の注意をはらいながら、一つ一つ丁寧に埃を掃って行く。
雑巾は既に真っ黒だ。
「終わったら声を掛けとくれ。蔵の中には入るなよ」
「はい」
祖父はあやめの返事に満足したのか、小さく何度も頷くと面倒な仕事を押し付けて旅館へ戻って行ってしまった。
「…はぁ」
残されたあやめはまた溜息を吐き、まだ埃を被っている骨董品たちを見やる。
断れない弱い自分を恨んだその時。
ーリン
「?」
何処からか心地よい鈴の音が耳に届いた。
「鈴?」
風に揺れて鳴ったのかと辺りを見渡すが、そんな強い風は吹いてもいないし鈴も無い。
空耳かと肩をすくめれば、再び透き通った鈴の音が聴こえた。
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