7人が本棚に入れています
本棚に追加
戦後すぐに、祖父が上京したときのことだそうです。
立ち寄った先の知り合いの仕事場で、食料難の話題などしてあれこれ旧交を温めていると、そこへ話しかけてきた者がいたそうです。
知らない顔の男は、
『米はあるんだが、私は米を食うと半身が縮むのだ。これを防ぐためには小麦を食わなければならん。そこで君、是非とも小麦を融通してくれないか』
といきなり、こんなことを言ってきたそうです。
知り合いとの会話のなかから、祖父の地元が、小麦の産地として有名な某県である、とアタリをつけたもののようです。
知り合いは男の身元を保証しましたし、男は手付を今すぐ払うといいます。
突拍子もない話ですが、ようは食料を分けてくれという、当時にはめずらしくもないことでしたから‥祖父は引き受けました。
ただ祖父は、どうも最初に見たときからヘンな印象を持ったそうで、
‥よくよく見ると、その男の顔は右と左で大きさが違っていて、ことに右がわが酷くゆがんでいたそうなのです。
そして、額の真ん中には段差のようにもみえる縦のシワが一本、はいっていたそうです。
最初のコメントを投稿しよう!