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戦後すぐに、祖父が上京したときのことだそうです。 立ち寄った先の知り合いの仕事場で、食料難の話題などしてあれこれ旧交を温めていると、そこへ話しかけてきた者がいたそうです。 知らない顔の男は、 『米はあるんだが、私は米を食うと半身が縮むのだ。これを防ぐためには小麦を食わなければならん。そこで君、是非とも小麦を融通してくれないか』 といきなり、こんなことを言ってきたそうです。 知り合いとの会話のなかから、祖父の地元が、小麦の産地として有名な某県である、とアタリをつけたもののようです。 知り合いは男の身元を保証しましたし、男は手付を今すぐ払うといいます。 突拍子もない話ですが、ようは食料を分けてくれという、当時にはめずらしくもないことでしたから‥祖父は引き受けました。 ただ祖父は、どうも最初に見たときからヘンな印象を持ったそうで、 ‥よくよく見ると、その男の顔は右と左で大きさが違っていて、ことに右がわが酷くゆがんでいたそうなのです。 そして、額の真ん中には段差のようにもみえる縦のシワが一本、はいっていたそうです。
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