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いったん郷里に帰り、再び上京した祖父は、指定された住所にたどりつきました。 そこは空襲を受けたあとに建てられたバラックで、幹線道路沿いにあったので、すぐにわかったのだそうです。 祖父が誰何しても誰も出てきません。 粗末な引戸に、鍵などは付いていませんでした。 土間で、背負ってきた重い荷をおろすと、もう一度こえをかけました。 屋内は暗くせまく、祖父には居間の様子がすぐにはわかりませんでした。 しかし、目がなれてくると、祖父は悲鳴をあげてしまったそうです。 ふとんの上に横たわっているのは、暗い断面をこちらに向けた、左半身だけの男の体だったのです。 そのとき、 その暗い断面の頭部のあたりで、白いものが動きました。 祖父は目を疑ったそうです。それは生きて動く、人間の目玉‥闇のなかに動くせいでそこだけ際立つ、白目だったのです。 よくみると、断面だと思ったところに内臓などは見えていません。 ‥するとこれは? と思ったとき、さらに頭部の断面のフチの辺りがパクッと裂けて、ぬらぬらと光る唇から、 『‥やあ、まっていたよ』 了
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