11人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前に現れたのは、『怪物』という文字を全身に張り付けた物体だった。
ケロン軍本部中央特殊演算記録室にあるデータは次のように語る。
[宇宙生物ニョロロΩ…汚染の進んだ惑星に多く生息する歩行型巨大ニョロロ。強靭性も高く、荒い縛り心地(地球言語に翻訳)]
そのような生物が地球にいること自体、すでに宇宙人の来客を受けていることかは疑問の余地がない。彼女はとっさにそう考えた。
それはくの一としても同じ考えであるらしく、彼女は剣を抜き放ち言った。
「夏美ちゃんはドロロのお友だちのところへ!」
彼女はこの際、『夏美ちゃんに対する好感度』アップのいい機会だ、と考えたようである。
「この異変の謎がわかるはずです」
最後にもっともらしくそう付け加えたが、結果としては真に有益な発言だった。夏美は、一人で大丈夫なのかと注意を喚起しようとしたが、功名心に猛る彼女には無益だと直感と理性の双方で悟った。
「忍に心配御無用!」
なおもそう言い続けるくの一に夏美はついに敗北した。
「気をつけてね、小雪ちゃん!」
彼女はきびすを返し姿を消した。
―やったぁ!―
小雪は自己の勝利を確信した。と、なれば後は目の前の障壁を排除するのみである。
しかし一瞬後、彼女が見出したのは、ニョロロΩから伸びる触手に頑字絡めにされた自分と、今まさに自分を呑み込もうとする怪物の姿だった。
―しまったぁ、油断しちゃったぁ…―
彼女は自分の不甲斐なさを呪いつつ、日頃の食欲を誇示するかのように目を輝かせる怪物に好意とは対局にある眼光を放った。
―不覚…―
最初のコメントを投稿しよう!