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むろん、このような事象を憂慮する人々は数多かった。退廃の末、人類が恐竜のように惨めに滅亡して行くのを、彼らは座視できなかったのである。「強力な政府を。強力な指導者を。社会に秩序と活力を!」この言葉が全てを決した。
こうして、人民を主権者とする民主政治を、人民自身が破壊するという皮肉な事態が生じる。彼らはグループの中における指導者を選定し、議会の中に協力者を見出すと、議会内の綱紀粛正に乗り出したのである。しかし、「伝統ある」特権にしがみつく連中の盾は意外に強固で、一筋縄にはいかなかった。数十回におよぶ「平和的交渉」と数回におよぶ「平和的武力行使」の末、やっとこさ有力議員二十人を追放せしめることに成功したのである。
変革は急速を極めた。当時の野党勢力の中心人物であった、人的資源委員長ミールはこの上ない辣腕ぶりを示し、いつしか人民は彼を「変革の王」と貧しい表現力をあらわにして称し、彼が次代の王たるを望むようになっていた。彼はことさら、自身が王たるを望んでいたわけではなかったが、人民の心の変化が、彼の心の変化につながったことは、否定できないであろう。「民主政治においては失政は不適格な為政者を選んだ民衆自身の責任だが、専制政治においてはそうではない。民衆は自己反省より、気楽かつ無責任に為政者の悪口を言える境遇を好むものだ」と、後世にいたって、ラルルなる人物がこの事態を皮肉っているが、その判断が正しく報われたことを、彼は否定しなかった。
かくして、「マロン王国」は初代国王ミールの名で誕生が宣言される。「統一政府」の消滅から二年が経過していた。
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