発火点

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…時代を西暦になおし、地球は敵のいない優越感と宇宙(フロンティア)への見果てぬ夢を肥大させているように見える。彼らは知らない。この地球に宇宙人が頻繁に出入りしていることに。彼らの技術力を宇宙人が嘲笑していることに。彼らの母星が侵略の対象とされていたことに。そして…宇宙人の武力侵攻を、東京某所に住む一家族が阻止し、地球の平和を維持していることに…。 ガマ星雲第58番惑星地球侵攻軍先行特殊工作部隊隊長ケロロ軍曹は、今日も日向家の衣服との果てしない闘いに従事していた。本来ならこのような平和的な家庭戦争に従軍するような、人物ではない。ケロロ軍曹は性格はともかく、容貌はけっして凡庸ではない。二等身の一見華奢な体に、大きすぎる頭をのせたカエルクリソツ宇宙人である。(ケロン全般からみて)『ハンサム』といえないこともないが、希少価値を主張するほどでもない。そしてなにより、無表情なのである。大抵の人物は彼の肩書きに仰天する。せいぜい軍人でも、広報勤務か、さもなくば給料編纂係しか似合いそうもない。しかし、彼はケロン軍の中でもごく少数しか存在しない、『隊長の素質を持つ人物』なのである。(そのエピソードは後に語られることとなるだろう。)そんな彼だったが、日向家の捕虜となって以来強制労働を受けるようになって久しい。ただでさえ極微量だった、軍人としての誇りその他もろもろはすでに磨滅しきっており、当人もそれを自覚しているのだからますます質が悪い。 「一同に集結した日向家の衣服…。これは願ってもないチャンスであります。」洗濯機が日頃の強制労働に対する不平のきしみをたてるなか、ケロロ軍曹は独語した。「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ……」 刹那… 「それ!白くなれ!!」 「ふかふかになってしまえ!!!」 …もはや、軍人の台詞ではなかった。 「まったく、捕虜の鏡だな、お前というやつは」 後ろで声をかける宇宙人がもう一人、影を作っていた。
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