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「なぁ、コージ、お前、今彼女とかいるのか?」
コーヒーの入ったカップを床に置いて、兄貴が言った。
「いや、今はいないよ」
それは、悲しい現実だった。
「……そうか、じゃあ、独りでここに住んでるんだな?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあさ、しばらくの間、俺をここに泊めてくれよ」
兄貴はあっさりとそう言って、再びコーヒーを飲み始めた。
「え~、ちょっと待ってくれよ。俺にだって生活が……」
そうだ、僕にも生活がある。
いくらこんな綺麗な女に変身した兄貴だからって、自由を奪われたくはない。
「なぁ、いいじゃねぇかよ。お前は俺にひとつ大きな〝借り〟があるんじゃないか?」
!!?
確かにそうだ。
僕は兄貴に大きな借りがあった。
それが原因で兄貴は家を出て行方をくらませてしまったのだ。
兄貴がいなくなってから、僕は後悔した。
「なぁ、いいだろ? 新しい部屋が見つかるまででいいんだ。それに、仕事を始めたら家賃も入れるからさ」
兄貴はあくまで強引に話を進めようとしている。
こういうところも昔のままだ。
「分かったよ」
僕はしぶしぶそう言った。
「よし。さすが俺の弟だ。話が分かる。だてに昔一緒に修羅場を潜り抜けてきたわけじゃないな……」
まるで本物の女のような声で話す兄貴の男言葉が妙に頭の中に焼きついていた。
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