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ある日突然、平穏な僕の日常生活は崩壊した。
今まで行方不明だった兄が突然帰ってきたのだ。
しかも、女になって……。
しかも、僕好みのとびきりいい女になって。
そんなモデルのように変身した兄貴と僕は一緒に暮らすことになった。
傍から見れば羨ましく思うかもしれない。
確かに、一人暮らしの大学生の男の部屋にモデルのような女が一緒に暮しているとしたら、それは同世代の男からすれば喉から手が出るほど羨ましいシュツエーションだろう。
しかし、実際はそうではないのだ。
彼女は元男で、しかも僕と血の繋がった兄貴だった。
本名は幸一だ。
あの夜、兄貴が突然僕の部屋にやってきた日、僕はあまりにも綺麗な彼女の魅力に吸い寄せられるように、彼女の胸を触ってみた。
いくら綺麗だと言っても元々男同士のしかも兄弟なのだから、それぐらいいいだろう。
僕はそんな安易な気持ちで兄貴の胸に触った。
しかし、次に瞬間、兄貴の拳が僕の顎に炸裂した。
「何すんだよ……。男同士なんだから、別にいいだろ?」
そういう僕に兄貴はまるで本物の女のようにキツイ目付きで睨み、殺し文句のように言葉を吐き捨てた。
「いくら男同士の兄弟だからって〝礼儀〟ってもんがあるだろう。前に働いていた店に来る客の中にもよくそういう奴がいたんだよ! だから、お前にはそういう風になってもらいたくないんだよ」
説得力のある兄貴の言葉に、僕は何も言い返すことができなかった。
「分かったよ。ごめん……」
僕が謝ると、兄貴はニッタリと笑みを浮かべて僕に言った。
「分かればいいんだよ。まぁ、でもお前の気持ちも分かるぞ。男から見れば今の俺は押し倒したくなるようないい女だもんな。よし、これから世話になるわけだし、今夜は特別に一緒に寝てやるよ。もちろんタッチもありだ。まぁ、楽しみに待ってろや」
およそそんな言葉を口にしないような女の子がありえないことを平気で口にしている。
僕はまるで摩訶不思議な異世界に迷い込んでしまったようだった。
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