兄が帰ってきた

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長かった冬が明け、ようやく暖かくなってきたというにも関わらず、僕はいつもと変わらないありふれた夜を過ごしていた。 見たい番組があるわけでもないのに、寂しさを紛らわせる為にテレビを点け、100円ショップでさらに値引きになった賞味期限間近の弁当を夕食にしている。 弁当に飽きた日は牛丼屋かラーメン屋で腹を充たす。 独りの時の食費はできるだけ切り詰めるのが僕のやり方だった。 そうしなければ、いざという時金がなくなってピンチになる。 例えば、突然かわいい女の子とのデートが決まったり、合コンの誘いを受けたり……。 しかし、そんな浮いた話も最近はずいぶんご無沙汰だった。 女っ気のない毎日が続いている。 大学進学に伴い、なんだかんだと屁理屈を並べて、実家を出てなんとか一人暮らしを始めた。 自由気ままの生活を夢見ていたが、現実は厳しかった。 確かに親に小言を言われない代わりに、家事は何でも自分でやらなければならない。 食事、洗濯、掃除……。 帰ってくれば食事と風呂の用意がされている実家が天国に思える時がある。 離れてみてはじめて親のありがたみを感じた。 しかし、今更実家に戻るわけにもいかなかった。 僕にも面子がある。
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