兄が帰ってきた

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意識が眠りの方向に向いていた僕は、初めそのチャイムが夢の中の出来事なのかと思った。 しかし、チャイムは何度も鳴り響き、僕を夢の中から現実世界へと呼び戻していった。 ピンポーン。 うさせぇなぁ……。 何度目のチャイムだろうか? 僕は部屋の中に鳴り響くチャイムに苛立ちを感じながら、ゆっくりと体を起こした。 僕は一度玄関のドアの前に立ち、ドアスコープで外の様子を見てみた。 時刻は午後10時を回っていた。 大学の友達とも約束をしていたわけでもない。 寝起きだったが、僕は突然の訪問者を警戒していた。 元々疑り深い性格だったが、一人暮らしを始めてから余計にその色が濃くなった。 ドアスコープの中には見知らぬ女が立っていた。 少し下をうつむいているようで、顔は髪に覆われていて見えなかった。 こんな時間に僕の部屋に女が尋ねてくるなんて……。 僕の不安は一気に高まっていった。 僕がなかなかドアを開けず、応対もしないので、外の女はまたチャイムを鳴らした。 僕はチャイムを無視して、一度リビングのテーブルの上に放り出してあったケータイを手に取り、メールか不在着信がないかを確認した。 だが、生憎メールも着信もなかった。 今、ドアの向こうにいる相手は何の約束もなくこんな時間に僕の部屋にやってきたのだ。 冷静に考えてみておかしいと思った。 まともな女が夜こんな時間に、一人暮らしの男の部屋に何の約束も無くやってくるだろうか? 新聞や宗教の勧誘にしても時間が遅すぎるし、普通ならこれだけ無視していれば諦めて別の部屋か違うマンションに行ってしまうだろう。 しかし、今僕の部屋の前にいる女はそんな気はまるでないようだった。 彼女は明らかに僕に用事があるようだ。 僕は急に怖くなった。
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