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どうしよう、どうしよう……。
僕の心は揺れ動いていた。
このまま無視を決め込もうか?
だが、ドアの向こうの女はまだ諦めていないようだった。
よほど大事な用なのか、それとも本当に頭がオカシイのか?
僕は手の中に握り締めていたケータイに視線を向けた。
そうだ、110番通報するという手もある。
こんな時間にこれだけしつこくチャイムを鳴らしているのだ。
僕がしなくても、その内近所の誰かが通報してもおかしくないような状況だった。
しかし……。
僕は少し思い留まった。
もしも、相手が本当に大事な用事でこの部屋を訪れていたとしたらどうするだろうか?
それに、相手は女の子だ。
少なくても力でなら勝てそうだ。
用件も聞かずに、このまま邪険にする必要もないのではないだろうか?
それに、もしかしたら、これが僕の望んでいた〝チャンス〟なのかもしれない。
僕は頭の中でそう結論を出し、勇気を出してインターホンの受話器を手にとって話し始めた。
「はい、どちら様ですか?」
今までの心の中の葛藤を気づかれないように、僕はなるべく冷静を装って話した。
「何だ、やっぱりいるんじゃん。早く開けろよ……」
それは思ってもいなかった返しだった。
その女の声は初めて聞くものだったが、その口調はまるで居酒屋で一杯引っ掛けてきた男のように荒々しいものだった。
しかも、相手は自分の名前も用件も名乗らず、ドアを開けることを要求してきている。
何なんだ、これは?
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