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俗に言う、結構緊迫した空気だった。
「ごめん。中途半端に優しい言葉掛けて無責任な希望なんか持たせられないから……」
「どうしても、ダメなのか」
「友達でいたい」
「……………、わかった」
そう言って、ようやく相手は車から降りた。
「……でも俺、諦めるつもりは無いから」
「………」
「それじゃ」
ドアを閉める無機質な音。
遠ざかる後ろ姿を見送り、一呼吸置いて車のエンジンを掛けた。
「………息詰まる」
車を走らせ、窓を全開にしながら吉村泉はため息をついた。
たった2時間前、泉は数日前に知り合ったばかりの男性に告白された。
理由について彼は、泉の普通っぽくて飾らない、でも優しいところが好きになったから、と言った。
「……言われてもなぁ」
泉は苦々しげに呟く。
なかなか相手は食い下がらず、説得にたっぷり2時間掛かったのだ。
その間に車内に篭った煙草の臭いに顔が引き攣る。
理由はいろいろあるが、その男性との交際は、……何と言うかまぁ、とにかく無理だった。
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