煙の話

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指定された居酒屋の前で、泉は午前中少し切りすぎた前髪を意味も無く引っ張ってみた。 長いのが気になって切ったは良いが、……何だか子どもっぽい。 日が延びてきたせいか、あれから帰宅して煙草の匂いを落とすためもう一度風呂に入っても、まだ少し辺りは明るかった。 幹事に先程誰の名前で予約しているのかとメールをすれば、予約無しだと返ってきたのでそのまま店内に足を進める。 一枚目のドアは自動、二枚目は手動だった。 二枚目に手を掛け開けると、居酒屋特有の揚げ物に混じった煙草の匂いが再び泉を包んだ。 「いらっしゃいませー」 入ったらわかると言われ、とりあえずキョロキョロしてみると、視界の中に自分に向かって手を振る見知った顔―――松田の姿が見えた。 「泉っ、おーい、こっちだ」 「お疲れ……うぇ、何、今日まだこれだけ?」 「連休って逆に結構集まり悪いんだ」 よくわからない解釈に首を傾げると、近くにいた1人が立って席を空けてくれた。 「どうぞ座って」 「あ、ありがとう……」 その紳士な行動に、泉は少し目を奪われる。 席を譲り、隣に座ったその彼はなかなか整った顔立ちをしている。
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