荒唐無稽な御伽の様

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何遍も首を傾け、彼女の口を塞げば、がつり、と。 案に相違して搗ち合えば、存外痛む口内に迂闊にも面を歪めて、口元を己の手の腹で押さえる事となった。 そして何故、発言を阻止せんとするが為だけであろうに、斯様な行為に至ったのか。 自身に唾棄したくもなる物であり、何より彼女とて己と同じくして、其の皓歯に搗ち合ったと言うのに、涼しい面で此方を見ているのだから尚の事。 自身の面は、弥が上にも歪む物だった。 「っ!下手糞」 己に対してか女に対しての腹立ちであろうか、兎にも角にも其れを女へと打付ける様に睥睨すると、女はころころ、と喉で鈴を転がすかの如く笑声を上げた。 其れが層一層、癪に障る。嗚呼、実に腹が立つ。 「つ、ふ、……おや、酷い言われ様だ。僕は何もして居ないぞ、何も。君が恣、得手勝手に興ふ、」 「う、煩いよ!其れに違うんだけど!思い上がらないで呉れない?御前こそ何?無抵抗とか、不身持何じゃないの?」 「無抵抗、僕が、」 然らば、不動心の持ち主なのか。 女はぱちくり、と何とも態とらしく目弾きをして、つらり、と道理に適った文句を吐く。 以って、不身持、と復唱する彼女は、こてり、と首を傾けて何やら沈思黙考し始めるのだから、頭の中は全体如何なって居るのか、曖昧模糊として四方や訳が分からなかった。 「イズミが望むなれば、何故抵抗を要する」 「はぁ?何言って……だから、イズミじゃ無いって」 「不身持、とは価値判断の違いだろ。僕にとって口接は何等価値も無い事」 「何其れ、馬鹿じゃん。ならさ、」 此れでも抵抗しない訳、と吐き捨てる様に言う俺は、気に食わない言動ばかり花唇から零す女を押し倒せば、矢張り女は何の抵抗もしない。 なれば、俺は得物を握ると、ひゅ、と女の衣一枚を剥き、其の露になった艶かしくも、てらり、と青白く光る上半身へと刃を当てた。 「ねぇ、此れでも?俺、今から御前を喰うよ。抵抗しない気?」 「君が望むならば……嗚呼、なれど君にしては随分と少ない欲よ」 然も理解している様な事を言うな、と喉奥から出掛かる音の。 己の激情とは相反して何も出来ずに居れば、細目で俺を見上げる眼は、一体己に何の情を抱くか。 じくり、と何処かに解せぬ痛みを生ず俺は、如何したか。 「あぁ!?はひひに何ひてははらぁ!」 女を暫し見詰め、其の眼から真実を探ろうとするも、不意に背に衝撃が走れば、嗚呼忘れていた。
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