荒唐無稽な御伽の様

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「何処だ」 再度問えば、だから何が、と半ば呆れを含んだ嘲笑を浮かべ、彼女は腰を落とす己を見上げていた。 目前にて整った細面の歪みを不器用に秘する彼女が、人と違うのであるならば、己は人と言う物が解せぬ。 なれば、何が違えば人では無い。 眼色か、毛色か、果ては手傷を負えど忽ち元へと戻る面妖な身か。 然れど、己が手を伸ばし彼女の前髪を梳かせば、青であっても其れは案の如く髪である。 次に二皮眼を撫でれば、彼女は眉を顰めて口唇をへの字に結べども、己を捉える青の眼も、案の如く眼である。 そして、又も何処だ、と問いながら、彼女の肌蹴た胸元の青白い筈である肌、闇の所為で漆黒色に見える所へと触れる。 なれば、己が指先はぬるりとした物を感じ、慎重にゆるゆると手を動かせども手傷は何処にも無いが、其れは案の如く血汁であるのだ。 然らば、何が違う。 未だ乾いていない其の血汁が、彼女も痛みを感じる何よりの証だ。 だのに、彼女は毫も痛くは無いのだと振舞う。 そして何より、其の面だ。 見るに忍び無く、痛々しい面が証であるのに、彼女は毫も痛くは無いのだと、片笑浮かべて振舞う。 斯様な彼女の、何処が人と違う。 然らば、彼女の偽りが故に、己の責任意識は夙に何処ぞへと行き、刃を向ける事は疎か問う事も相叶わず。 寧ろ、彼女を斯様な面にさせる彼の丈夫が浮かべば、何やら彼に対して、己が内心穏やかで居られぬ。 以って、彼女は目前に居るのだと言うのに、遼遠の彼方の如くした存在に感ずれば、己は針でも呑んでしまったか。 而して、一度君の頭を捌いて中を拝見したい物よ、と然う託つ神無月が半目で遠くを見遣れば、伸びた彼女の首筋へと眼が行った。 「男に……斬られた、と……痛む、か」 「嗚呼、漸う会話が成立した気がするな。疾うに痛みも無ければ、傷何ぞ塞……待て、男?何を言う、女だろ」 「……!?」 「何も其処まで愕然とした面をされてもな……僕が斯様な嘘を吐くか、阿呆臭い」 「否……偽り、とは……女人……であった、か」 其処には、薄らと噛み痕残るが故、己が逸らそうと話を振れば、思わぬ衝撃が頭骨を遠慮も無しに殴打した。 彼の弁慶は女であったとは四方や信じ難いが、彼女が何とも真摯な眼で述べるならば、偽りでは無いのだろう。 なれど、衝撃は止まぬ物である。 「君は気付かぬだろうから、僕が教示を献上してやろ。斎藤……僕の胸座に手を忘れてるぞ」
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