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「っ、」
「遣られたか」
神無月が斎藤の瞼の上を指差して首を傾けると、彼はつう、と自身の血汁が流れ入り、視界の悪くなった眼を押さえながら、こくりと首肯した。
然様な彼等の慮る事は、実に単線思考である。
尤も、厄介に捉えるのは彼等のみであるのだが。
なれば、男は女の齟齬を来たす言動に、女が偽りを述べて居らずとも、親しげな輩が居る事は奇怪しいと疑いを抱いた。
其の由も、男にも解する程に其の輩の身、どぷりと浸かった今世が臭うては詮方無く。
然らば、男が女を問い質そうにも、如何せん。
常に無関心面の彼女が、恰も小指の仲との別れを惜しむ様な面であれば、其れは男の存ぜぬ女だった。
ならば、唯の回し者であれば良かった、其の方が未だ良かった、と。
見知らぬ女の姿に男は、脳裏にちらつく疑点よりも、輩に対して気も食えない具合に陥れば、詰まる所は何とも安易な事か。
男は輩に、嫉視したのである。
其れが、男の脳裏に混沌を齎す事由であり、以って初めて抱いた情が、何か解せぬ男は不器用だった。
故に、彼の如何答えられるかと言う問いは、己自身への問いでもあり、如何応えられるか、其れに尽きるのだ。
男の片眼から溢れる血汁は、斯様な篤い彼の葛藤による涙の如くあれば、男が女の腕を尚一層握る意も伝わろうか。
「君の破顔と泣き面は、想像し兼ねるが……存外、泣き面は合う」
「否……此れは、血」
「……喩えよ」
而して片一方、自身の指をぷつりと噛んで一粒の赤玉を作り、男の瞼の上を拭う女の頭中も又、混沌としていた。
何が、と問えば正しく全てだろう。
「僕が君等を一夜で目覚めぬ身にする事何ぞ、造作無い。故に、」
「嗚呼、承知」
イズミは無論、眼前の男が心底解せぬのだから、彼の意は遺憾ながらも伝わって居なかった。
加えて、自身が男の傷を治す意も、覚束無げな声音で述べる釈明の様な言辞も、女には心底解せず。
「ほら、帰るんだろ?其の眼も早に洗い流した方が良かろ。2度、だからな」
「2度、」
「君を治した貸しよ貸し、僕は善良では無いからね。返して貰うのよ、きっちりとな」
以って、此れ又器用では無い女が、立ち上がり男を引けば、不器用な男が安堵の面持ちで嗚呼、と首肯した。
然らば、女は解せぬ、と鼻で笑い、男も己も欺くのだ。
「時に……其の……男は、此処の……住人、か」
「然うだな。如何見ても住人よな」
「大将!其れは酷いっす!」
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