久闊を叙するは愛着の処

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別して用向きがある訳でも無し、と言えど肢が其方に向かうのは、紛う方無く何か意図がある訳だ。 「あかん、何もあれへんやないか」 然れど、如何せん頭を搾りに搾った所で、用、と言う物が浮かばない。 故に、己が肢をひたりと止めて、己が胸にびしりと突っ込みを入れてみるも、何やら諸々空しくなれば、踵を返して颯と就床してしまおうと巡らせるしか無いだろうに。 「何故だ。拵え言を吐く事に、如何程の利がある」 「利、は……」 「あーもうっ!神無月は難しく考え過ぎなの!一ちゃんも真剣に考えないの! 良い?一ちゃんは嘘、言ってないじゃん。言う必要の有無を、判断しただけ。ほら、山南さん生真面目だし、」 なれど、我知らずに歩みが速ければ其処、神無月の室との距離は眼と鼻の先だった。 然らば、馴染み深い声音が聞こえるが故に、肢は無意識にも留まり、己が性分なのか求知心が擽られてしまったのだ。 「藤堂、何故君が然う噛り付く。まあ、山南が囂しい事には同意する、が。僕は斎藤ならば、有体に知らせるであろうと思惟した迄よ。 君も七面ど……誠直な人間性であると見做すが故、余程の利が無くば……違うか、斎藤」 「己は……誠直……然うか。だが……利では」 「だからぁ!利鞘、利鞘って……神無月の商人!其れとね、一ちゃん!誠直って言われて、照れないの! 神無月ってば七面倒って言いそうになってたし、あんまり褒めて無いと思う!」 「藤堂、斎藤が弁じてただろ。其の喧しい口唇、縫い付けてやろか」 「え、俺と話すの嫌?」 「利、では」 「藤堂、潤うた眼は止せ。止さぬならば、僕の膝から退け、」 従って、己が如何な鼎談かと耳を傾けるも、露程も解せぬ、否。飲み込めたのは山南が小姑の如くと言うばかりの。 四方や解するに難い内容だが、如何にも己が性分、疼く物で。 「あかん!斎藤はんにも喋らせぇ!不憫やないか!ほんで平助はんも、突っ込み甘いねん!ちゅうか、神無月から離れぇ!んで、神無月は、なんでそない冷静なん!あんさん攫われてたちゃうんか!気苦労損やわ!あほ!」 故に、たんっ、と障子を開け放ち、破竹の勢いで捲くし立てるのは、不本意だ。 剰え、何やら踏鞴を踏んでしまった様で、素直じゃないよね烝っちって、と述べる藤堂に苛立ったのは言うまでも無く。 然れど、己が用向きとは、彼女の面を見て安らぎを得たかったのだと気付けば熱くなり、其れにも又、苛立った。
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