厚化粧

2/10
前へ
/258ページ
次へ
「うぉ……っ!?」 洗面所の鏡を見て驚いた。顔全体が腫れ上がり、所々に青紫色の跡が点在している。 汚れた上着を脱ぐと、体中内出血の跡や、切り傷があった。頭にもでっかいたんこぶと血の塊。 「クク……こりゃまた酷くやられたな」 人が気絶してるときに好き放題やりやがって。 「ハァ……うまくいかないもんだな。何一つ……」 自分でもどうして日本に来たのかわからない。 母さんの生まれ育った町にきて、母さんの大好きだった桜を見れば、俺の怒りや憎しみが和らぐと思っていたのだろうか。 空っぽな心が満たされると、そんな世迷い言を盲信していたのか。 こっちに来て真っ先に有名な桜並木を見に行ったが、何も感じなかった。 何を期待していたのだろう。 学校にも、そこら中に桜は咲いていて、あんなに綺麗なのに……。 平和な日本はみんないい人で、思いやりがあって、楽しく暮らせる……。絵空事……。 「どうして……何も変わらないんだ……」 むしろこっちは陰湿で、自分勝手で、根っこが腐ってる人間が多い気がする。 偏見だと信じたい。俺の勝手な思い込みで、サンプルが少な過ぎただけ。 身体は疲れきっているはずなのに、今日も眠れなかった。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加