ひとり

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まだまだ冬の、 肌寒いその日に 「あなた」は きっと冷たいであろう コンクリートと繋がった金網のうえで、 寒さに体を震わせるわけでも、 鮮やかな今を 見ることもなく、 小さく、本当に小さく ただ そこに 横たわっていた。 不規則な形に広がった赤色は金網に吸い込まれ どこまでも下へと 落ちていったらしい。 幾数のライトの集まりの赤が私をその場に留めた。 「あなた」の上を 1台の軽自動車がぎこちない不恰好な響きをあげて通過した。 「あなた」はもう動けないのに。 また1台、汚い灰色の乗り物が通過した。 また1台 また1台。 そしてもう1台。 それでも「あなた」は動かない。 動けない。 辺りに目を向けても 誰も「あなた」を見ていなかった。
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