プロローグ

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人には話したくない秘密の一つや二つあるものだと俺は勝手に思っている。 そんな俺にも、話したくない過去というものはある。 『足長おじさん』―――最初に誰が呼び始めたのかは知らないが、いつの間にか俺の呼び名として定着していた。 どこからか聞こえてくる『足長おじさんに頼めばやってくれるよ』という声を、聞こえていないふりをしながら過ごす。 父も母もいない。幼い時に二人同時に亡くした。 それが俺の話したくない思い出の一つ。触れられたくない過去。 足も長くない、青春まっさかりの俺が、足の長いおじさんと呼ばれる原因となったのは、父と母の死と言ってもいいだろう。 別に今の生活が嫌いなわけではない。むしろ恵まれているとさえ思える。 一人暮らしをしながらも、高校にキチンと通えるのだからな。 恵まれている―――そう思わないと壊れてしまいそうだから。
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