五月病

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 次の日は、雨だった。傘をさして、いつもより早い時間に僕は公園にいた。少年は、いなかった。  いつも座っているブランコも、今日ばかりはびしょびしょで、さすがに腰を下ろす気にはならなかった。  砂場の前に立つ。以前作った砂山は崩れ落ち、掘った穴には水が貯まりつつあった。  頭の中に、あの少年の顔が浮かんだ。少年は、今日こそは学校に行けそうだ、と言っていた。  彼はもう、登校しただろうか。それともまた、この公園に来るだろうか。 「あ」  短く声が漏れた。というのも、公園の前に見覚えのあるシルエットが見えたからだ。小走りに駆け寄って、それがいつもの少年の姿であることがわかると、僕は何故だかほっとした。  彼は昨日と同じ黒いランドセルを背負って、小さな黄色い傘をさしていた。 「よう」  軽く声をかけると、少年はちょっぴり悲しそうな顔をした。 「おにいちゃん。ぼくきょう、がっこ行くよ」 「そうか、よかったな」 「ぼく、がんばるから」 「そうか」 「ぜったい、がんばるからね」 「わかったよ」  傘を持つ手に、自然と力が入るのがわかった。 「じゃあ、いってきます」  その言葉が、最後だった。少年は、小さな体を揺らして、雨の中に姿を消した。  そしてその日、少年は二度と公園に姿を現さなかった。
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