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ただ、気になることが一つ。
「なあ、お前。何で、学校行こうって気になった」
昨日までずっとこの公園で燻っていた彼が、どうして急に学校に行こうという気になったのか。それだけが疑問だった。
少年は言いにくそうに、もじもじと体を揺らす。
「それは、その。おにいちゃんが、がんばれっていってくれた、から……」
「はあ?」
僕は、思わず首を傾げてしまった。
確かに昨日、僕は頑張れと言った。だが、たったそれだけのことで、彼は学校に行く気になったのだろうか。単純にも程がある。拍子抜けだ。そんな簡単なことで、不登校の生徒が学校に行くようになるなら、誰も苦労しないのに。
彼の周りの人間は、そんな言葉すらかけてやれなかったのだろうか。
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだよ」
「ぼく、がんばれるかな」
「……頑張れるんじゃねえの。知らねえけど」
すると、少年はぱっと顔を明るくして、嬉しそうに言った。
「ぼく、あしたはがっこ、行けそうかも」
「そうかい。そりゃよかった」
「だから、おにいちゃんも、がっこ行かなきゃだめだよ!」
「……なんでそうなる」
「やくそく!」
少年は、僕の前に小指をつき出してくる。ゆびきりげんまん、というやつだろう。顔を逸らしてみるが、向こうは全く引く気がないらしい。
仕方なく、僕は彼と“やくそく”をした。
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