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この物語はある日から約二年前の夜中。
この物語は考えればいくらでもありそうな憎しみの絡んだお話。
満月でもなく、その日の宵は三日月に雲が掛かる何とも日本的に美しい、そんな御伽噺の背景のような夜だった。
場所は路地。しかもただの路地ではなく、ゴロツキ共や無法者が闊歩する暗黒街で。命の価値がまぁ五番目あたりに来るような、そんな極悪達が集まる場所なのだがそんな場所の夜だと言うのに路地は見合わぬ静かさを。
そして、夜の闇の中で踊る二人の人の姿が。
「ずはぁ…………!! はぁっ……!!」
二人は共に長い髪を持つ女性だった。互いに肩で息をするほど疲弊し、鼻血を垂らして真新しい青痣を身体の至る所に浮かべていた。顔にはベッタリと貼り付いた髪の毛が線を引く。
「フー……ッフぅー……!!」
内、片方は少女であった。九歳程度の女の子と差して変わらぬ身体に靡く金髪、純白であったであろう子供サイズのスーツを所々赤く染めて拳を握る。
そんな少女の顔面を、ど真ん中を、鼻っ面をもう片方の女性の拳が捉え……
「パぐッ!?」
軽々と少女の身体は宙を舞い、一度強かにアスファルトへ叩きつけられた後は二転三転して惰性に停止…………幾ら少女の身体が小柄とは言え、この威力は人の有する力の範疇を遥かに逸脱している。
「踊れよ。早くないか? シャカになるのはまだまだ先の話だろう?」
女性は倒れ込んでピクリとも動かぬ少女を冷めた目で見下ろしながら吐き捨てた。
月明かりで浮かぶ姿は、美しく血塗れで…………黒髪と瞳は吸い込む闇のように。漆黒はこうまでも女性を女として美しく際立たせる。
その体つきは細く腕も脚も、何らそこいらの女性と変わりはない。が、秘めたる力は有り余り。
「……ッんぐ…………」
少女は辛うじてうつ伏せの体勢から膝を突いて立ち上がり、決壊したダムのように流れ出る鼻血になど気にも留めず健気に身体を起こした。焦点は虚ろいで、顔は幸せに綻ぶ。
「あは ぎひひひひひっひひひひ!! ぎぃひヒははははははははッ!!」
「…………」
「かはッはは はははあははははばぁぐっ!!」
そして、少女へと降りかかる無情な一撃。
それは混じり気のない純粋な、蹴り。
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