第一章 トラブルは横暴幼女と共に

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 マズかったね!    ズかったね!      かったね!        ったね!           ね!           ね、ネ、ne  ──果たして残響は空耳だったのか。  プツリと、リッキーの中で何かが切れた。同時、人格を構築する理性という名の壁が音を立てて瓦解していく。  ──「あとであれ、ひどいんだかんねッッ詳しくは言わないけど!」── ──やかましい──  空っぽになった皿が散らばるテーブルを見て、なんだこれはと熱が湧く。  ──「何って。あさごはんだよリッキー」── ──やかましい──  床に落ちた野菜根菜果物の残骸を見て、煮えたぎるようなどす黒い何かが沸々と胸中にこみ上げる。  ──「ぬふっ。あさごはんは体にいいこと山の如しッ」──  ──や か ま し い──  この時リッキーは、はっきりと理解した。  重苦しく、さりとて熱を帯びたこの昂揚感の正体を。胸中渦巻くどす黒い何かの正体を。  これが《怒り》だという事を。  抑えねばならないのは重々承知している。齢二十四にもなる大人が、傍目(はため)、十にも満たないであろう子供に向かってこの感情をぶつけるなど。
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