序 章 咆哮は拳と共に

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 人外は否定する。  自分は人間如きに恐怖を掻き立てられなどしない。  人外は疑念を抱く。  ならば、何故自分は震えているのか。  人外は解釈する。  おそらくこれは、ただの武者震いだと。  人間がゆっくりとした挙動で立ち上がった。目測百八十センチ程度の生物。人外と比べると約二十センチも低い事になる。  だが、人間が放つ得体の知れない気色は、等身大をはるかに凌駕していた。  ──警告、警告。  パキリ、ポキリと拳を鳴らしながら不敵に笑う人間。  ──震え、震え。  細動を繰り返す膝。  ──危険、危険。危険。  刹那、固く握り締めた人間の拳が、人外の鳩尾を真芯で捉え── 「──それが人にものを頼む態度かゴルァアアアアア!!」  特大の咆哮と共に振り抜かれた。  そしてあろうことか、《二メートルはある人外の巨体が宙を舞った》。  肺に残っていた空気が纏めて外に押し出される。叩き込まれた衝撃の爆発は、それだけに留まらない──粉砕肋骨内臓破裂──常識の範疇を越えた一撃に、駆けめぐる痛覚に、人外の意識は早くもフェードアウトを始めた。
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