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「すいませぇん…」 身近な存在なようで滅多にお世話になることのないその場所に、 緊張の面持ちで足を踏み入れた。 頭の中ではいかついおじさんがムスッと机に向かっているイメージがある。 「どうしましたか?」 しかし、出迎えてくれたのはイメージと正反対の爽やかなお兄さんだった。 「あの…財布…落としちゃったみたいで。」 お巡りさんはそれは大変だったね。と優しい言葉を掛けてくれて パイプ椅子を出してくれた。 「じゃぁ、これに名前と住所書いてくれるかな?」 その紙に言われたことを書きながら、財布の特徴や中身のことなどを聞かれる。 把握しているはずがこう聞かれると意外と出てこない。 全部きちんと言えないと見つかっても返してもらえないんじゃないかと 呻りながら一生懸命記憶をたどる。 「そんなに考え込まなくても大丈夫だよ。何が入ってるかすぐに言える人なんていないから。 何か忘れててもちゃんと返せるよ。」 優しいなぁ。 今のあたしにはちょっとの優しさも身にしみる。 書き終えた紙をお巡りさんに返す。 「名前は、室井…里…香…さん…?」 「はい。室井里香(サトカ)ですけど…。 いつもリカって読まれるんですけど、お巡りさんよくわかりましたね?」 お巡りさんはじっと私を見つめて動かなくなった。 「あのぅ…?」 「あ、いや…ごめんごめん。お財布が見つかったら連絡しますので。」 何処か慌てたようにお巡りさんは席を立った。 つられてあたしも席を立つ。 「よろしくおねがいします。」 なんで自分をじっと見てたのか不思議に思いつつ 交番を後にした。 .
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