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交番から少し離れたところで 後ろから名前を呼ばれふりむいた。 「追いついてよかった。君、どうやって家まで帰るの?」 さっきのお巡りさんが息を切らして立っている。 あ、そうか。 定期もないし財布も無いんだ…。 迷子になった子供みたいに急に悲しくなってきた。 「電車で帰るんだったら困るだろうと思って。何時返してくれても構わないから。 これ使って。」 気づかなくてごめんねと言いながら1000円札を1枚握らせてくれた。 「あ…でも…」 「いいの。困ってる人がいたら助ける。それが僕らの仕事だから。」 優しく微笑んでくれるお巡りさん。 の顔が、すぐに歪んだ。 「…どうしたの?」 あぁ…そっか。 私、泣いてる。 「なんでも…ないです…ごめんなさい…ありがとう。」 「大丈夫?一人で帰れる?」 あぁ…優しいなぁお巡りさん。 「泣かないで?財布はちゃんと見つかるよ?だから、ね?」 俯いた私を覗き込むようにして大きな手で頭を撫でてくれた。 このままこうしてたら大声上げて泣いてしまいそうだ。 彼とは違うお巡りさんの大きな手が心地よすぎる。 「里香ちゃん。大丈夫だよ?大丈夫。」 全てを知っているかのように大丈夫って何回も繰り返し撫でてくれる大きな手。 このままじゃ、こんな街のど真ん中で泣き崩れちゃう。 「お金…必ず返しにきますから…っ」 そういい残して、私は心地いい大きな手から離れ、走り去った。 遠くにお巡りさんのあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。 .
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