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「はぁ…はぁ…」 苦しっ… 久しぶりにこんなに走ったよ。 適当な木に手を付いて呼吸を整える。 バッグからペットボトルのお茶を出そうとして 千円札を握り締めてる事に気がついた。 木にもたれかかってしわくちゃになった千円札を両手で伸ばしたら お巡りさんの優しさにまた涙が溢れてくる。 やだ…涙止まんないよ… 人目もはばからず、木に抱きついて声をあげて泣いた。 チリンチリン……っ チリンチリン……っ 遠くに小さな鈴の音が聞こえる。 はらはらと桜の花びらが舞っている。 グズっと鼻をすすりながら見上げたら 満開の桜。 「桜の木だったんだ…」 きれい… きれいだなぁ… チリンチリン……っ チリンチリン……っ なんだろう。 すごく心地いい。 木にしがみついて目を閉じると お巡りさんの優しい大きな手を思い出した。 ついさっき彼氏に振られた事も 定期を忘れた事も 財布を失くした事も いっぱい溜まってるポイントカードの事も どうでもよくなってくる。 .
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