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真っ黒な闇の中、僕はひとり佇んでいた。
右も左も分からない、見上げても、見下ろしても、そこには何もない。
地面すらなく、ここにいる僕自身、自分が立っているのか、それとも宙に浮かんでいるのか…それすらも分からなかった。
「またあの夢か」
僕は心の中でつぶやいた。
僕は自分自身の姿を、まるで他人を見るような感覚で見つめていた。
それができたのは、僕自身がこれは夢だということに気がついていたからかもしれない。
これは、僕自身が何度も何度も見続けてきた夢。
あまり好きではなかったが、決して嫌いでもない。
そんな、複雑な思いのこもった夢だった。
嫌いなのに嫌いじゃない…その矛盾は、夢の内容にある。
しばらく待っていると、僕の前に少女が姿を現した。
栗色の髪の毛。目鼻立ちがしっかりとしていて、少し気が強そうに感じられる顔立ちは、幼さの中にも芯の強さが見て取れる。閉じられた瞳の前で合わさっているまつ毛は、女の子なら誰もがうらやむ長さだろう。
肌の色が白いのは、あまり外に出て遊ぶことが好きではないからだ。
彼女がどんな人? と聞かれれば、僕はたいがいのことを話すことができた。
彼女は、それだけ僕の中で特別な存在として今も息づいている。
夢の中の彼女はパイプで作られたベッドの上に横たわっていた。
今にも目を覚まして僕の名前を呼びそうな感じがする。
いや、夢が自分の思い通りになるのなら、僕はすぐにでもそうしただろう。
しかし、実際には夢で彼女が目を覚ましたことは一度もなかった。
今日こそは目を覚まし、
「雄輔」
と、僕の名前を呼んでくるかもしれない。
いつもそんな気持ちになる。
しかし、結果は一度も変わることなく、今日もまた、彼女はついに目を覚ますことはなかった。
最後は決まって、彼女の横たわっているベッドが闇の向こうへと遠ざかっていく。
僕は走って追いかけるのだけれど、どんなに一生懸命走っても、それに追いつくことはできなかった。
「澪!」
僕は、彼女の名前を呼んだ。
そして、次の瞬間ベッドは闇の中へと消えていった。
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