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沈黙の夜が辺りを包んでいた。
気がつくと、彼女はナトリウム街灯の橙色の明るい光に照らされていた。
彼女は自分がなぜこんな所にいるのかわからなかった。ここが何処なのかもわからなかった。
彼女は学校から家に帰る途中の記憶が消失していた。
まるで深い夢から醒めた感覚だった。
そして、彼女自身の五感が戻るにつれて、その異様な光景に驚愕した。
死の臭いがした。
絶対的な死の腐臭が辺りを包んでいた。
彼女の目の前には、顔のない屍が街灯にもたれかかっていた。顔の皮膚を剥ぎ取られ、筋肉がそのまま露出している。
身体の大きさから男性だとおぼしき屍は全身を血で染め、己の臟腑をだらしなく腹からこぼしている。
心臓が急スピードで心拍を刻む。
呼吸すれども肺が麻痺したようで空気が入らない感覚。
臟腑の臭いに伴う激しい嘔吐感。
恐怖。無条件の恐怖が彼女を支配し、叫ぶことすらできない。
そして、凄惨な夜に鳴る着信音。
彼女の携帯電話からだった。
彼女は制服の上着から携帯電話を取り出す。手を強く握りしめるが震えが止まらない。
携帯電話の画面には知らない電話番号が通知されていた。
彼女は藁をもつかむつもりで通話ボタンを押した。この状況で話せるなら誰でもよかった。
『………………。』
電話越しの相手は沈黙していた。沈黙は恐怖でしかない。彼女は恐る恐る話しかけてみた。
『あの…』
『…ダ。次…オ……ダ。』
話しかけると、相手は低く、くぐもった声で話していた。電波状況が悪いらしく、酷くノイズが混じる。
しかし、彼女は安堵した。が、それは束の間の安堵だった。
『次は…次はお前が…。』
ノイズがなくなっていく。
不気味なほどノイズが消えていく。声の主は何度も同じ言葉を繰り返す。
段々と声がに鮮明なっていく。
低いその声も大きくなる。
『次は…お前がこうなる番だ。』彼女の耳元でそいつは呟いた。
『嫌…いや…イヤ…いやぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
これは、狂気の物語。
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