月影 輝(ツキカゲ テル)

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  『秒速5センチメートル』 桜の花びらが落ちる速度は、秒速5センチメートルらしい。 一体、誰がそんな事を調べたのかは分からないし、それを調べて発表したところで、興味が湧く人間なんてそういないだろう。 なら、桜の花びらが落ちる速度は秒速5センチメートル。なんて言った人間は、何故そんな無駄な事を調べたんだろうか? 初めてその無駄知識を知ったのは高校生の頃。だから、もうずっと前な気がするが、僕なりに出した答えがある。 『きっと僕みたいな人間の心に住む為だろう……』 これが僕の出した答え。昔見た映画で知ったその情報は、未だに僕の心の中に居座っているのだから、あながち間違っていないはずだ。 僕は人の波にさらわれて、信号待ちに捕まり、何気なしに上を見てみれば、視界の半分以上を高層ビルが占め、残りは薄暗く紅みを帯びた空が申し訳程度に広がっている。 17:38 信号を挟んで、目の前にあるビルの4分の1程度の位置に埋め込まれた電光掲示板は、その時刻を無機質に伝え、ただ淡々と時刻を刻み続けている。 もし時計に意志があるなら何を思うのだろうか? 例えば今、自分の腕時計なら何を思っているのだろうか? ソーラー電池のせいで電池は切れず、電波によって時刻は狂わない。機能としては申し分ない彼は(彼女かもしれないが)何を思っているのだろうか……  
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