人間

5/6
前へ
/378ページ
次へ
やはりここは風が気持ちいい。ここは最高の場所だ。 シャントは草原で軽い昼寝をしていた。 すると、覚えのある匂いがした。 この匂いは…。 …ドスン。ドスン。 2体のドラゴンが草原に降りた。シャントは寝ていた体を起こした。 「お帰りイグニ、カズミ。どうだった?」 イグニはシャントに向かって親指を立てた。 どうやら狩りは大成功だった様だ。 一方のカズミは納得した様な表情をしているので、狩りの仕方は分かったらしい。 シャントは思わず笑顔になっていた。 「そうだカズミ。」 いきなりイグニがカズミの方を見て、カズミに話しかけた。 「ん?な、何?」 カズミはなんとなく嫌な予感がした。しかし、今の自分の状況を、何時までも隠し通すわけにはいけないだろう。 これは仕方がない事だ。問題はシャントとイグニが自分の言ってる事を信じてもらえるか。 いや、信じてもらわなくてもいい。 自分は元々、シャント達と一緒にいる気などなかったはずなのだから。 「お前は…一体何者なんだ?」 やっぱりその質問か。 カズミはそう思った。そう思うのも無理はないが。 やはり、言わなければいけない。例えそれが信用されなくても。 カズミはひとまず深呼吸し、ついに自分の今の状態を、シャント達に明かした。 「俺は…元々は人間だ。目が覚めたら、俺はこんな姿に…ドラゴンになってたんだ。」 「人間?」 イグニが驚いている。側にいるシャントもイグニと同じ表情をしている。 しかしそんな事は気にせずに、カズミはどんどん話を進める。 「人間だったから俺は、狩りの仕方を知らなかった。何で俺がドラゴンになったのかは分からない。気が付いたらなってたんだ。人間だった頃の記憶がないし、何が原因でなったのかも分からない。でも分かったことは、俺はドラゴンになって、記憶を失い、異世界に来てしまったって事だけだ。」 「い…異世界?」 ようやくシャントが会話に入ってこれた。 しかしにわかに信じがたい。目の前にいるカズミは、どこから見てもドラゴンだ。しかし、彼は自分は元人間だというのだ。 こんな話信じられるだろうか? やはり信じられない。でも…。 しばしの間、沈黙が続いた。 シャントもイグニも、さっきから黙ったままだ。 カズミは溜息を吐くと、こう言った。 「やっぱ…信じられないよなぁ…。」 カズミは多少諦めモードに入っていた。 その時… 「いや、信じるよ。」
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

752人が本棚に入れています
本棚に追加