人間

6/6
前へ
/378ページ
次へ
え?今、信じるって言った? 俺の言ったことを信じるって言った? カズミはたったのあの一言で混乱した。てっきり誰も信じてくれないだろうという事を誰かが信じたのだ。 一体誰が…。 「信じるよ。だって、カズミは友達だから。」 シャントだった。 何かいきなり友達に勝手にされているが、そんな事はどうでもよかった。 重要なのは、シャントが自分の言ったことを信じてくれたことだ。 「え?信じて…くれるの…?」 まだカズミの頭は混乱していた。 何でこんなことを信じてくれるんだ。一体何で…。 「それに、ほっとくわけにもいかないよ。」 シャントが元気よくそう言った。 「え?」 「だって、記憶喪失なわけでしょ?確かに最初はびっくりしたけど、記憶喪失と聴いちゃあ黙っちゃいられないよ。」 シャントは相変わらずの笑顔で話していた。 何でどいつもこいつも簡単に俺の事を信じてくれるんだ。本当に…。 カズミは思わず泣きそうになった。 こんな暖かい声を聴いたのはあの日以来だ。 そう…あの日もこんな感じだった…。 しかし、今日は前とはちょっと違った。 「僕も信じる。」 そこにいたのはイグニだった。 「カズミが嘘吐いてるようには見えないし。」 イグニもこれまた笑顔だった。 そしてシャント同様、暖かい声を出していた。 カズミは我慢できず、ついに涙を流してしまった。 「あれ?カズミ。もしかして泣いてる?」 シャントがカズミをからかうかの様に、カズミに近づいてきた。 「うるさい…。お前ら…本当に面倒くさい奴らだな…。」 カズミは涙を流しながら、そうシャントに返した。 「ほら、また面倒くさいって言った。やっぱりカズミって、面倒くさがり屋さんなんだよ。」 シャントが嬉しそうに言った。 イグニも側で微笑んでいる。 カズミは涙を拭き、シャントに向かってこう呟いた。 「ちげ~よ、バカ。」 カズミの顔は涙の跡がまだ残っているが、この上ない笑顔だった。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

752人が本棚に入れています
本棚に追加