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菖は安堵の息を吐きながら、エレベーターの階数表示を見上げた。
「ああ、もう。また一階に戻っちゃったじゃん。ほら、放してよ」
くつくつと笑いながら、久孝は、それでも彼女を放そうとはしない。
髪に耳に、その唇をすり寄せる。
「やだ。もっとする」
「こんなトコ、近所の人にでも見られたら困るじゃん」
「どうせ、同棲カップルだと思われてるんだから、平気だよ」
「…ウチ帰ろうよ」
「ウチ帰ったら、続きしていい?」
「…して来たんでしょ?他で」
「菖、今夜は帰って来ないかと思ったんだもん。菖としたい」
もう一度、今度は呆れ顔で溜め息を吐くと、菖は、半身をよじってエレベーターの操作パネルに手を伸ばす。
それを阻もうと手をかける久孝の腕を、子供をなだめるようにポンポンと叩いて、困ったように微笑んだ。
「とにかく、一緒に帰ろ?」
「………了解」
そもそも久孝が部屋を出たのは、煙草を切らしたためだった。
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