2人が本棚に入れています
本棚に追加
頬を膨らませながらリビングに出て、菖は、金魚鉢の金魚に餌をやる。
もちろん、鳥籠の中に入った金魚鉢だ。
一度、これについて意見してみたことがある。
餌をやる時や、水を替えるのに不便じゃないか、と。
『猫にとられる心配がなくて、いいじゃん』
それが彼女の答えだった。
ペット禁止マンションの五階に猫が居るかどうかは、聞かないことにした。
「久?聞いてる?」
突然目の前に近付いた菖の呆れ顔に、久孝は驚く。
「悪い。聞いてなかった。何?」
「土日は休み?って聞いたの」
「ええと…。土曜は昼に取引先との約束があって、日曜は休み。お前は?二日とも休み?」
うん、と肯いて、菖は飲み干したビールの空き缶をシンクに置く。
こんな会話をしていても、彼らが休みの日に一緒に出かけることは、全くと言ってよい程ない。
食事や映画は勿論、近所のスーパーまでの買出しでさえも。
その代わりに、彼らは一日中この部屋に居た。
何をするでもなく、ただ二人で。
最初のコメントを投稿しよう!