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鳥籠の部屋
薄暗いエレベーターホール。
エレベーターを待っていた男と、エレベーターに乗っていた女。
二人の視線が、合った。
「…菖(しょう)」
「…あ、びっくりした…久(ひさ)」
夢から醒めたような表情で、菖は長い睫毛をしばたかせる。
「お前、また考え事でもしてたんだろ」
久孝(ひさたか)は呆れたように笑って、閉まりかけた扉を左手で押さえた。
「うるさいな」
子供のように唇を尖らせて、女は横目で彼に視線を送る。
そして、男と扉の間を、するりとすり抜けた。
その瞬間。
甘い香りが、久孝の思考回路を寸断した。
男物の香水の、香り。
久孝は、彼に背を向けて部屋に向かおうとする菖の腕をつかみ、乱暴にエレベーターに引き戻す。
突然のことに目を剥く彼女を自分の元に引き寄せ、唇を重ねた。
「…ちょっ…久っ何…」
驚いて抗う女を手近な壁に押し付け、一層深く口付ける。
エレベーターの扉が、音も無く閉まった。
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