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また月を眺めてる。
お前は月が好きだなぁ。
**side Aya**
「マジュン。また月を観てるのか?」
「今夜は満月の次の夜だろ。この月は何て呼べばいいのかなぁって」
「ん?」
月を観た。
確かに満月より少し欠けているようだ。
俺はマジュンの隣に座り、月ではなくマジュンの横顔を眺めた。
長い睫毛のシルエットが月夜に浮かぶ。
「月の呼び名か?知らねぇ」
「アヤでも知らないことあるんだね」
「あるさ」
マジュンは俺の弟。
正確には弟みたいな存在。
俺はマジュンの家族同様に育てられた。
マジュンの母親が俺の乳母で、俺が2歳の時にマジュンが生まれた。
マジュンには俺と同じ日に生まれた兄がいたが、残念ながら死産だったらしい。
「明日だね。今度はいつまで?」
「秋が終わる頃に戻る」
「待ってるね。その頃はストランドに行ってるよ」
そう言って、優しい笑みを見せてくれる。
お前の笑みに、いつも助けられるな。
罪なヤツだ。
マジュンの漆黒の様な黒髪と大きな瞳が月の光を弾く。
太い眉は意志の強さを見せ、艶やかでぷくっとした唇は情の深さを感じさせる。
俺たちはジプシー。
旅をしながら各地を流れ育った。
歌・踊り・楽器。
芸を磨き貴族の前で披露する。
俺は歌と楽器が、マジュンは踊りが得意だ。
マジュンの踊りは貴族の御婦人方を魅了し、時には城内で長く滞在させてもらうこともある。
しかし、俺たちはジプシーだ。
滞る水は腐る。
同様に、流れる民はその流れを止めれば生きてはいけない。
俺はこの暮らしが好きだ。
しかし、俺にはまた別の家族がある。
2つの家族を行き交う暮らしにも慣れてきた。
明日からはジプシーのアヤではなく、スカーレット侯爵家のショーンに戻る。
また滞ってしまう…。
だけど、それが本当の俺なのだ。
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