ten years ago

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また月を眺めてる。 お前は月が好きだなぁ。 **side Aya** 「マジュン。また月を観てるのか?」 「今夜は満月の次の夜だろ。この月は何て呼べばいいのかなぁって」 「ん?」 月を観た。 確かに満月より少し欠けているようだ。 俺はマジュンの隣に座り、月ではなくマジュンの横顔を眺めた。 長い睫毛のシルエットが月夜に浮かぶ。 「月の呼び名か?知らねぇ」 「アヤでも知らないことあるんだね」 「あるさ」 マジュンは俺の弟。 正確には弟みたいな存在。 俺はマジュンの家族同様に育てられた。 マジュンの母親が俺の乳母で、俺が2歳の時にマジュンが生まれた。 マジュンには俺と同じ日に生まれた兄がいたが、残念ながら死産だったらしい。 「明日だね。今度はいつまで?」 「秋が終わる頃に戻る」 「待ってるね。その頃はストランドに行ってるよ」 そう言って、優しい笑みを見せてくれる。 お前の笑みに、いつも助けられるな。 罪なヤツだ。 マジュンの漆黒の様な黒髪と大きな瞳が月の光を弾く。 太い眉は意志の強さを見せ、艶やかでぷくっとした唇は情の深さを感じさせる。 俺たちはジプシー。 旅をしながら各地を流れ育った。 歌・踊り・楽器。 芸を磨き貴族の前で披露する。 俺は歌と楽器が、マジュンは踊りが得意だ。 マジュンの踊りは貴族の御婦人方を魅了し、時には城内で長く滞在させてもらうこともある。 しかし、俺たちはジプシーだ。 滞る水は腐る。 同様に、流れる民はその流れを止めれば生きてはいけない。 俺はこの暮らしが好きだ。 しかし、俺にはまた別の家族がある。 2つの家族を行き交う暮らしにも慣れてきた。 明日からはジプシーのアヤではなく、スカーレット侯爵家のショーンに戻る。 また滞ってしまう…。 だけど、それが本当の俺なのだ。
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