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山に吹く風も、海の色も、何一つ変わっていない。
あぁ。懐かしい匂いだ。
**side Kanarie**
空気が美味いッ!
故郷の空は世界一だ。
1年ぶりに戻ってきた小さな村。
イングリッドの対岸に位置するこのアキハ村が俺の故郷。
何にも無い小さな村だ。
海に近いが流れが速くて漁に適さない。
村人の多くは畑を耕し自給自足の生活をしている。
俺の家も畑が唯一の財産だ。
我がエイス家は子爵とは名ばかりの貧乏貴族。
先祖代々この土地で百姓をして暮らしてきた。
貧しさは半端無い。
村全体が貧しい。
収穫を前にして村を襲う大雨と洪水。
河川の整備が遅れているこの村の民は何度も苦しめられてきた。
丹精込めて育てた作物が一夜でやられてしまう。
雨が引けた後に残るのは無惨な畑の残骸のみ。
それでも畑しかない。
この村には何も無い…。
俺は昨年からイングリッドの寄宿学校で生活している。
貧乏だが貴族の端くれ。
学問も剣術も、誰にも負けやしない。
全ては女王陛下のために。
いつか必ず陛下にお仕えするために。
陛下―。
あなたにこの命を捧げます―。
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