ten years ago

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山に吹く風も、海の色も、何一つ変わっていない。 あぁ。懐かしい匂いだ。 **side Kanarie** 空気が美味いッ! 故郷の空は世界一だ。 1年ぶりに戻ってきた小さな村。 イングリッドの対岸に位置するこのアキハ村が俺の故郷。 何にも無い小さな村だ。 海に近いが流れが速くて漁に適さない。 村人の多くは畑を耕し自給自足の生活をしている。 俺の家も畑が唯一の財産だ。 我がエイス家は子爵とは名ばかりの貧乏貴族。 先祖代々この土地で百姓をして暮らしてきた。 貧しさは半端無い。 村全体が貧しい。 収穫を前にして村を襲う大雨と洪水。 河川の整備が遅れているこの村の民は何度も苦しめられてきた。 丹精込めて育てた作物が一夜でやられてしまう。 雨が引けた後に残るのは無惨な畑の残骸のみ。 それでも畑しかない。 この村には何も無い…。 俺は昨年からイングリッドの寄宿学校で生活している。 貧乏だが貴族の端くれ。 学問も剣術も、誰にも負けやしない。 全ては女王陛下のために。 いつか必ず陛下にお仕えするために。 陛下―。 あなたにこの命を捧げます―。  
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