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空が泣いている。
この暮らしに不満など無い。
卑しき身の私を愛して下さる法王様に不満など…。
**side Sarsh**
もう8年になる。
リータという名を捨て、住み慣れた土地を離れた。
私は地位と名誉と権力を手にした。
田舎町で釣りをして暮らしていた私が法王の寵愛を受ける宮廷歌手になろうとは…。
権力など望まぬ。
ただ土の香る故郷の空が懐かしいだけだ。
父だと思っていた人は父ではなかった。
そして…
私は…。
本当の父は聖職者だそうだ。
そう。
私は…神が禁じた子。
生まれてはいけない穢れた子なのだ。
私を身籠った母は、たった一人の供人を連れて父の一族の追っ手から身を隠した。
ある港町へたどり着くと、そこでひっそりと私を産み落とし、息絶えた。
母は何故に父を愛してしまったのか。
父は何故に母を愛してしまったのか。
神に背いてまでも…何故。
自分の命とひきかえに私を産んだ母。
母は…幸せだったのだろうか。
母と私を見捨てた父。
父は…幸せなのだろうか。
父に会ったことはない。
何処ぞの教会で神に自身を捧げておるだろうが関係ない。
父の名前すら知らない。
元から親子の情など存在しない。
私にとっての父は、鍛冶屋の父だけなのだ。
母の実家は敬虔なカトリックだった。
当然、母の犯した罪は許されるものではない。
しかし、祖父母は母と縁を切り、供を一人与えて身重の娘を国外に逃がした。
祖父なりに愛する娘とその子の命を守ったつもりなのだろう。
母は14歳だった。
父母と別れ、たった一人の従者との長い旅。
途中何度か追っ手に捕まりそうになりながら、大きなお腹を抱えて、私という生命を守り抜いたのだ。
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